講談杮落とし

仕事の合間に読んだ本やドラマ、アニメ、映画の記録です。

『暗号学園のいろは 1』あらすじと感想(ネタバレ含む)

 こんばんは、こけらです。

 今回は、西尾維新さんの『暗号学園のいろは』第1巻です。

暗号学園のいろは 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 原作は我らが西尾維新さん、作画は『少年法のコロ』『くずかごマウンテン』にて共同した岩崎優次さんです。現在のジャンプにはない路線の暗号ミステリ。「一体原作者の頭の中はどうなっているんだ!?」というような暗号の数々を、魅力的なキャラクターが解いてゆくという作品です。個人的にはかなり推しでして、実はアンケートはがきを出していたりします……(笑)

 

 

 以下、ネタバレまみれ。

 

 

 あらすじ

 来たる世界大戦に備えて、暗号解読に長けた少女達が集う軍人学校。その名も『暗号学園』!! そんな高校とは露知らずに入学してしまったいろは坂いろはは、ひょんなことから学園生活を懸けた暗号バトルに巻き込まれることに…。苦戦するいろはだが、その手にはあらゆる戦争を停められる鍵が握られていて…!? 十五の少女達が、銃後で暗号を解く!! 奇想天外な学園ミステリードラマ、開幕!!

 

 登場人物

 いろは坂いろは(いろはざか・いろは)・・・・・・・主人公・生徒(A組)

 

 東洲斎享楽(とうしゅうさい・きょら)・・・・・・・生徒(A組)

 徐綿菓子(おもむろ・ゆかこ)・・・・・・・・・・・生徒(A組)

 夕方多夕(ゆうがた・たゆう)・・・・・・・・・・・生徒(A組)

 

 絣縁沙(かすり・えんさ)・・・・・・・・・・・・・生徒(A組)

 

 海燕寸暇(うみつばめ・すんか)・・・・・・・・・・生徒(A組)

 朧そぼろ(おぼろ・そぼろ)・・・・・・・・・・・・生徒(A組)

 

 肉枝搾(にくえだ・しぼり)・・・・・・・・・・・・教官(A組)

 

 洞ヶ峠凍(ほらがとうげ・こごえ)・・・・・・・・・生徒(M組)

 

 

 いやはや久しぶりに体感しましたね、西尾さんの名付け。今作は『めだかボックス』のように九州地方に統一したという訳では無さそうです。統一性は今の所見られないのですが、ネーミングセンスが鈍色に輝いております。こちらも学園を舞台にした、西尾維新×暁月あきらが放つ、学園異能バトルとなっています。ぜひぜひ。

 

 

 

 内憂外患の企みを銃後から暴け!--YES,MA'AM!!

  いきなり肉枝教官の宣誓から、物語は始まります。暗号学園に入学した主人公、いろは坂いろは。その学園では、暗号を解いて解いて解きまくるという、そんな学校でした。いろは君の「だいたい! 一世紀近く前に日本は戦争を放棄――」という台詞がある通り、令和の現代とはまた異なった世界観のようです。まき散らしますねえ、伏線を(西尾さんのことなので、回収しないことも視野に入れておきましょう)。

 そしてチュートリアルにと配られたのが『自己紹介クロスワード』(★2)。

 これは言葉で説明するのが難しいので、ぜひ本編を読んでいただければと思います(笑)。

 いきなり暗号を解かされて狼狽するいろは君ですが、周囲の生徒たちは臆することなくそれを解いてゆきます。そして一番に提出したのが『美人さん』こと、東洲斎享楽でした。そんな彼女に肉枝教官は「お前なら別の進路もあっただろうに」と傍点を散らしながら聞きますが、東洲斎さんはこう答えます。

 「……平和ボケしたこの国の【言論弾圧】ケツを蹴り上げるためです」

 いいですね、西尾さん特有の、美人で口の悪い女の子。

 そんな異色のカリキュラムを初日から叩きこまれたいろは君は、図書室に突っ伏します。自己紹介クロスワードすら解けない自分に、半ば自己嫌悪を抱きながら。

 そんな時。

 

 突如登場する謎の逃亡者、洞ヶ峠凍。

 「――かっ、匿って!」

 その直後、美人さんこと東洲斎さんと徐さん、夕方さんの三人が来て、「ここに誰か来なかった?」と尋ねられるも、とぼけるいろは君。ここで、東洲斎さんからさらっと暗号学園の設定が明かされます。

「――どうして暗号学園に男子がいるの?」

 隣にいる徐さんが答えます。女子だけが暗号解読に取り組むというのも時節柄好ましくないということで、各クラスに約一名ずつ、どうでもいい男子が入学させられているのだとか。実質ハーレム状態って奴ですね。なのに全然ウハウハしない!この緊迫感!

 匿ってもらったお礼として、洞ヶ峠凍は、いろは君にある眼鏡を譲渡します。

 その後のいろは君と凍のやりとり――なんでこの学校に来たの? は、西尾節を感じますね。凍はこう言いました。

「暴力を振るわなくてもヒーローになれるから、だぜ」

 そしてそのまま去り行く凍。続けて課題に取り組もうと、渡された眼鏡を掛けてみると――。

 

 自己紹介クロスワード、クリア!しかし……

「謝りたいからツラ貸してくれる?」

 本来できるはずのない問題(自己紹介クロスワード)を見事解き切ったいろは君。しかしそのせいで、昨日の東洲斎一派にそんなことを言われ、屋上に呼び出されます。凍から何か受け取ったのではないか、私たちお友達でしょ(怖い)と詰められるいろは君ですが、啖呵を切り突っぱねます。

「友達は選ばなきゃね。ボクは人数や暴力で脅しをかけてくる奴とは、友達にはならない!」

 この辺りの主人公の芯の強さというか、ただ可愛いだけではないってところが、とても心くすぐられますね。ジャンプ漫画でここまで傍点つけまくるのって、この漫画くらいのものかも?

 それを聞いた東洲斎さんは、ある暗号(★5)を出します。

「オーケー。じゃあ嘘だったらあなた、三年間私達の下男ね。」

 その暗号とは、ここにいる東洲斎享楽、徐綿菓子夕方多夕(ここで本名が公開されました)のうち誰かを示す暗号文だそうです。出された暗号は、もう本誌か単行本を買って解読してみて下さい(かくいう私もちょっとチャレンジしてみましたが挫折しました)。窮地に陥ったいろは君は、昨日凍にもらった眼鏡を掛けます。そんな眼鏡程度で何が――と、思いますが……?

 

 解凍編(アイシー・コールド・リーディング)!

 出ました西尾維新得意の言葉遊び!良いですね、好きですよこういうの。

 なんと、凍から譲渡された眼鏡は、暗号を解読する機能の付けられたスマートグラスでした。解読とは言っても、暗号文が光って見えるというもの。それを糸口に、いろは君は暗号を見事解き、東洲斎一派を撃退します。暗号は、いろは坂いろは君自身を示すものでした。「ここにいる誰か」なんて言っておきながら自身を選ばせるとは、西尾維新らしいです。

 そんな眼鏡の性能を不思議に思ういろは君。そのグラスに搭載された超小型カメラから、どこかの部屋にいる洞ヶ峠凍は、大きな声じゃ言えないような台詞を、口にしました。

「いっそこのまま参戦してもらおうかな? 暗号学園に眠る500億M(モルグ)の、暗号資産の発掘戦争に」

 

 かくして、第1話了! 

 いやあ、1話だけで信じられない濃さでした。これが七話も続くの!!??流石は西尾維新さん、1話に詰め込む情報量が桁違いで、こうやってまとめるのも一苦労です。

 こんな風に各話毎に章分けして感想を書いていければ良いのですが、流石に冗長になってしまうのと、私情ですが体調が不安定なこともあり、今回のネタバレ含むあらすじはこの辺りにしておきます。

 

 感想

 めちゃくちゃ面白かったです!!!!!! 推しです! 絶対に続いて欲しいです!

 何よりこの漫画の評価したい箇所は、暗号を解けなくとも楽しめるところ、面白いと思えるところ。実際私も週刊誌掲載時に挑戦してみましたが、全く解けませんでした。にも拘わらず、面白いと思える状況、情景、登場人物たちの会話、配置によって、「面白い」が作られている。これは全く新しいジャンプ漫画と言っても過言ではありません(過言かもしれないですが……)。例えるなら、『バクマン。』にて、サイコーとシュージンが目指した邪道バトルの一種の成功例とでも言いましょうか。

『アンデッドアンラック』『逃げ上手の若君』のアニメ化も控えていますし、今のジャンプでは厳しい立ち位置にいる本作ですが、これからも本誌と単行本共に応援しようと思います。

 

 それでは今回はこの辺りで!

 擱筆

 

こけら

『呪術廻戦 16』あらすじと感想(ネタバレ含む)

こんばんは、こけらです。

今回は芥見下々さんの『呪術廻戦』第16巻です。

呪術廻戦 16 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ダークな雰囲気と舞台がとても大好きな漫画です。

16巻表紙は偽夏油。本物の夏油くんは耽美でしたか、こちらは淫靡ですね。

脳から垂れているのは脳漿でしょうか。おいしいんですかね。このえぐみと気持ち悪さが、『呪術廻戦』だなあという感じがします(最大級の賛辞)。

渋谷事変編もいよいよクライマックス。いつも通りネタバレまみれでお送りします。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレまみれ

 

 

 

 

 

 

あらすじ
真人を手中に収め、自らの計画の一端を語り出す夏油。渋谷事変の最終局面に呪術師達が集うなかで、脹相は夏油の亡骸に寄生する“黒幕”の正体に気付くが!? 事変の終焉が招く破滅と混沌、世界は急変する――…!!

 

登場人物(人外含む)

虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)・・・・宿儺の器

両面宿儺(りょうめんすくな)・・・・特級呪物

 

パンダ・・・・・・・・・・・・・・・呪術師

日下部篤也(くさかべ・あつや)・・・呪術師

西宮桃(にしみや・もも)・・・・・・呪術師

加茂憲紀(かも・のりとし)・・・・・呪術師

禪院真依(ぜんいん・まい)・・・・・呪術師

三輪霞(みわ・かすみ)・・・・・・・呪術師

庵歌姫(いおり・うたひめ)・・・・・呪術師

 

九十九由基(つくも・ゆき)・・・・・呪術師

脹相(ちょうそう)・・・・・・・・・呪胎九相図

 

禪院直哉(ぜんいん・なおや)・・・・呪術師

禪院扇(ぜんいん・おうぎ)・・・・・呪術師

禪院甚壱(ぜんいん・じんいち・・・呪術師

 

乙骨憂太(おっこつ・ゆうた)・・・・処刑人

 

■■(偽夏油)・・・・・・・・・・・呪詛師

裏梅(うらうめ)・・・・・・・・・・呪詛師

 

ついに来ました乙骨先輩。東京校より京都校の面々が全面に出ていた気がします。

 

 

 偽夏油と加茂憲倫

 「聞いてるかい? 宿儺」

 「始まるよ。再び、呪術全盛平安の世が。」

 史上最悪の術師と偽夏油は同一人物でした。以前にも名前だけ出てきましたね、脹相たち呪胎九相図を作った加茂家の汚点。そう繋がってくるか。こうなると本当に黒幕、というかラスボスでしょうか。

 呪霊操術、極の番「うずまき」を利用して真人の術式「無為転変」が使えるようになっていました。最強というより最凶って感じですね。そしてちゃっかりおまけページで名前が明かされていました(一枚絵が格好いい)。

 「羂索」。読みはけんさく、か、けんじゃく、でしょうか。不空羂索観音像なんかを思い出しますね。東大寺に乾漆像があった気がします。辞書で調べたところ、「五色の糸をなって作る縄状の仏具。端に半形の金剛杵や鐶をつける。不動明王不空羂索観音などが持ち、衆生済度の象徴とする」だそうです。これからどう絡んでくるか楽しみですね。次巻あたりで明かされるのでしょう。

 裏梅と一緒にいるのは、何かの作戦なんでしょうかね。そういえば彼女(彼?)の術式も明かされました。氷凝呪法。いわゆる氷使いです。

 

 

 九十九由基、颯爽登場

 「ムカつくから皆であいつボコろう」

 裏梅に追い詰められていたところを助けてくれた特級術師です。術式は不明ですが、東堂の師匠なら相当強いはず…?偽夏油と論争しています。世界から呪霊を失くす方法。

 「呪力からの”脱却”だよ」

 「違う、呪力の”最適化”だ」

 ここ偽夏油が真顔なのがいいですね~。本心からそう思ってる感じがして。九十九さんはまだまだ全貌が明かされていないので何ともですが、敵でもなく味方でもないが悪人ではない、という感じでした。哀川潤。連れてる呪物(?)が『HUNTER×HUNTER』の「恐ろしく速い手刀を見逃さなかった俺」を食べてた念魚っぽいです。あれ名前なんだっけ……。

 偽夏油は遠隔で「無為転変」をし、マーキングしておいた人々の脳を呪術使える用に変えちゃいます。元からこの状況を想定していて、だからこそ五条とかじゃなく夏油傑を乗っ取ったんですかね。ちゃっかり伏黒津美紀もいますね。意識不明の伏線回収。千人もいるのか。もう日本おしまいでは……。そのまま偽夏油は退場。

 

 

 ええ性格してはる禪院家の方々

 「で、死んだん?」

 禪院家の人たちが登場しました。全巻までは真希、真依、直毘人くらいでしたが、どっと増えました。禪院甚壱は、字から見て甚爾の兄弟かな。禪院扇は真希真依の父親? でしょうか。ちょっとややこしい。家系図がほしいですね。

 そして当主の直毘人が亡くなったり(結構好きだったので悲しい)、遺言で伏黒くんが当主になったりと、そんなイベントが霞むレベルで、良い性格(京都弁解釈)してるんですよねー、この人達。自分が当主になることしか考えてない直哉くんとか、当主が死んでも誰も驚かない(むしろ笑うし)とか、新当主ぶっ殺しに行くとか言い出す始末……五条悟が「腐った呪術界」と言っていたのが分かった気がしました。直哉くんは直毘人と同じく投射呪法ですね。フレームどうたら。

 誰かこの家ぶっ壊してくれないかな……。

 

 

 処刑人、乙骨憂太。 

 「虎杖悠仁は僕が殺します。」

 作中一番好きな人物が登場して嬉しかったんですが、その話で絶望しました。

 なんで敵として出てくんだよ乙骨先輩!!!

 渋谷事変にかこつけて、上層部(エヴァのゼーレみたいな人たち)がいくつか通達を出しました。①夏油再死刑 ②五条悟永久追放 ③夜蛾学長処刑 ④虎杖処刑 ⑤虎杖の処刑人は乙骨 の五つです。この世の終わりみたいな通達です。封印された途端にこれです。五条悟は、どれだけ多くのものを守っていたんでしょうね。そして特級術師にして五条悟の教え子、乙骨憂太が、敵側に回ってしまいました(狗巻くん腕切られたんですね)。

 しかもクソ強い(言葉が汚くてすみません)。

 呪力量はあの五条悟より上。虎杖との戦闘で刀は折られますが、その最中に「リカちゃん」を出現させ動きを止め――心臓に突き刺します。乙骨くんは零巻の段階でもう祈本里香を解呪しているはずなのですが……後々明かされるのでしょう。普通なら死ぬけど虎杖どうなる……。色々と超然としている世界観の中で、一番人間味ある人物かなあと思ってたんですが……眼にハイライトないよ……また彼の笑顔を見れる日は来るのでしょうか。

 乙骨憂太については、前日譚となる『呪術廻戦第0巻 東京都立呪術高等専門学校』をご一読下されば。彼がうじうじしてます。傑作です。

 

 

 この巻の主人公は脹相だった。

「それでも弟の前を歩き続けなければならん」

「だから俺は強いんだ」

 今回のMVPは脹相でした。お兄ちゃん。裏梅対脹相、禪院直哉対脹相でしたが、魅力的な戦闘でしたね。裏梅の方は、反転術式すら効かない毒で、直哉くんの方はオリジナル技「超新星で、見せ場がありました。コマをぶち抜いて「全力でお兄ちゃんを遂行する」は、台詞は面白いけどめちゃくちゃ格好良かったです。小学校の頃は兄と一緒に少年漫画ばかり読んでいたので、こういうアツい人物は好きですね。

 二戦目、直哉くんとの戦闘も迫力がありました。「大技の前には溜めがある」、虎杖も指摘していた弱点です。直哉くんの考察からすると「超新星」は加茂家の技ではないのでしょう。攻撃を当てて関西弁クズを鎮めます――防御が更なる攻撃に転ずる攻撃、ジョジョ4部のドブネズミを思い出します。

 何より、兄弟を蔑み、踏み台とする人間の直哉くんが負け、兄弟を愛し、道を指し示す人外の脹相が勝つ。

 こういう展開好きですね~。

 人でなくとも血を分けた兄弟がいて、人でなくとも家族がいて、いびつでも曲がっていても、人でなしでも幸せでいられる。そういう話には、ちょっぴり心が救われます。

 

 まあ、最後に乙骨くんがぶん殴っていったんですけどね。

 強すぎるっての……。

 

 

 感想

 相変わらず最高でした。黒幕が登場し、徐々に物語の核心に近付いてきたような印象です。特に対立する人物(人外)達の対比。どうしてこんなに面白いんですか(面倒なファンの典型)。個人的には、おまけページで描かれていた絵がお気に入りでした。ついつい何度も見たくなってしまう。

 禪院家の当主は誰になるのか、虎杖悠仁の生死やいかに、五条悟を失った呪術界は一体どこへ向かい、世界はどうなってしまうのか。

 期待と絶望に胸を高鳴らせながら、次巻も楽しみにしています。

 

 

 というわけで、芥見下々さんの『呪術廻戦』第16巻でした!

 これにて擱筆

 

 こけら

『人類最強のときめき』あらすじと感想(ネタバレ含む)

こんばんは。

皆様いかがお過ごしでしょうか。こけらです。

本日は、西尾維新さんの『人類最強のときめき』です。

人類最強のときめき (講談社ノベルス)

 

 【最強シリーズ】3冊目となる本書。
 【最強シリーズ】は、西尾維新ファンならお馴染み、【戯言シリーズ】に登場する《人類最強の請負人》こと哀川潤が主人公となって、常識を越えた魑魅魍魎を跳梁跋扈する短編集です。

 以前「メフィスト」にて掲載されていた短編「哀川潤の失敗」も同時収録されています(うれしい)。そういえば「メフィスト」、春はお休みでしたが、2021年秋からリニューアルされて再開するみたいですね(うれしい)(【世界シリーズ】が待ち遠しいです)

 

tree-novel.com

 

 

 さて、どうしていきなりシリーズの3冊目なのかというと、

 面白い

 の一言に尽きるんです。

 面白くて面白くて、たまらずこうして感想を書き残しておきたかったのです。他の【最強シリーズ】や、『人類最強のヴェネチア』ももちろん購入して読破しましたが、語り部哀川潤のシリーズの中では、個人的に一番好きでした。「これこれ、これだよ! 西尾さんのこういう話が読みたかった!」となりました。なんて勝手な読者でしょう(反省)。

 5つの短編の中から特に好きだった1つ『人類最強のよろめき』について書かせていただきます。 

 

 

 

 以降ネタバレまみれ

 

 

 

『人類最強のよろめき』

「潤さん。活字を滅ぼしてください」

 短編の中では2番目に掲載されている作品です。

 

 あらすじ

 ER3システムのニューヨーク支局支局長にして七愚人の一人、因原ガゼルから仕事の依頼が舞い込んだ。ER3システムのある女性若手研究員が開発したAIによって創作された「小説」の破壊。その「小説」は、手に取る人の好みに合わせて自動生成されており、あまりに面白すぎて寝食を忘れて読みふけってしまいそのまま読者は衰弱死してしまう。既に数百人の死者が出ており、なんとその研究員は一般社会への無料配布を目論んでいるらしい。世界が滅ぼされる前に、人類最強は「小説」を滅ぼすことができるのか……!

 

 

 登場人物

 哀川潤(あいかわ・じゅん)・・人類最強の請負人

 ドクター・コーヒーテーブル・・・・プログラマー

 因原ガゼル(いんぱら・がぜる)・・・・・七愚人

 長瀞とろみ(ながとろ・とろみ)・・・・哀川潤

 

スペシャルサンクス)

 由比ヶ浜ぷに子(ゆいがはま・ぷにこ)・・・・妹

 

 

 『ライト・ライター』と『パブリック・ブック』

「――いいですか、『パブリック・ブック』に関しては、読みもせずにイメージだけで批判して下さいよ」

 最悪の読者だな。

 

 小説を自動生成するプログラムの正式名称が『ライト・ライター』です。古今東西の小説が電子化され網羅されており、統計学に基づいて小説を書くシステムです。カメラで読者の表情を読心し解析、好みの小説を作りあげるというもの。電子書籍の究極版みたいなものですね。そして表情の解析には、哀川潤の実質的な妹である由比ヶ浜ぷに子のOS(読心術)が活用されているとのこと。

 哀川さんが機械である彼女を「妹」とたびたび表現しているところが、何とも感じ入るものがありますね。

 

 そうして作られた小説が『パブリック・ブック』。寝食を忘れて死ぬまで読み続けざるを得ない傑作。ある意味「世界の終わり」を体現していますね、どこぞの狐面を思い出します。少し話は違いますが、ドラえもんの秘密道具にも「要望に応えた漫画を作る」ものがあった気がします。確か「まんが製造箱」……でしたっけ…?(うろ覚え)

 

 この辺りで、「あーナルホド、『パブリック・ブック』読む前に、哀川さんが電子書籍ごとぶっ壊すんだろーなー、結局読む前に壊せばいいとか言うんでしょー、いつもの展開じゃんー」と、私は読みもせずにイメージだけで批判してました。最悪の読者です。

 

 由比ヶ浜ぷに子の詳細は、同じく【戯言シリーズ】スピンオフ、【人間シリーズ】第3作、『零崎曲識の人間人間』をご一読下さい。こちらも傑作です。

 

 

 

 

 哀川潤、砂漠へ行く

「ご来駕、まことに感謝いたしますと言うしかありませんね。人類最強の請負人哀川潤様。」

 

 哀川さんは、アメリカのテキサス州の砂漠のラボに籠城していた、全ての元凶の研究員を訪ねます。意外とあっさり入れました。砂漠の地下には国家図書館もかくやというくらいの大量の本棚があり、最下層に彼女はいました。

 その名はドクター・コーヒーテーブル。写真より痩せて、伸ばしっぱなしの髪の毛も白髪化して、衰弱していました。戦えないくらい弱る、哀川さんへの対抗手段でした。バッテリがギリギリの状態で『パブリック・ブック』を読むことで、その状態を作っていました。読んでたらバッテリ切れ、実際にあったら嫌です。

 

 そしてコーヒーテーブルから、ページの左側が軽くなってくると、読み終わりたくないと思う。もっと読んでいたいと思う。だから終わらない(終わる前に死ぬ)小説を作った、という動機が明かされます。その気持ちはとても分かります。あー、もっとこの物語の世界を堪能したい、と思って、最後の一行を読了した後にちょっと寂しくなることありませんか? 私はあります。結構な頻度で。

 そして二人の会話の最中、コーヒーテーブルは一冊の紙の書籍を手渡します。

 何気なく受け取った哀川さんですが、それこそが『パブリック・ブック』でした。

 

 

 生きている書籍

「言語の壁はおろか、デジタルデバイドさえも無視できる――これぞ『究極の小説』としか言えませんね。」

 彼女は言う。か細くも骨太な声で、得意げに言う。

 

 『パブリック・ブック』は、紙の書籍でした。手に取った者が触れた手からバイタルチェックを行い、人工生物がインクで文字を刻み、皮脂や汗を食べて動き続ける、書籍の形をした一つの生態系でした。電子書籍ですらなかった。表紙すら、もう読者の好きなものへと変容し始めていて、破壊することもできない。電池も必要ない。

 読む人さえいれば永久に動き続ける生きた本

 哀川さんも血の気が引いています(あの哀川潤が!)。この展開は予想できなかったのでやられたなと思いました。電子書籍との対比で「紙の本~」なんて言われている昨今ですが、これは躍進です。

 コーヒーテーブルちゃん、やるじゃん(何様)!

 

 

 ドクター・コーヒーテーブルという人物について

 ――そのコンプレックスこそがこのすさまじいまでの応用性を生んでいるのだと思えば、やはりドクター・コーヒーテーブルは天才の名に恥じない研究者だった。そう言われるのが嫌なら天才以上だ。

 

 普通に敵なのですが、私は彼女が好きです。

 彼女については、作中での評価があまり良くないです。長瀞さんはオリジナリティがないとか、お勉強ができるだけの秀才とか散々なことを言ってます。

 出来のいいただの秀才。オンリーワンにはなれない呪いを課せられた者。

 『めだかボックス』の阿久根高貴、『黒子のバスケ』の氷室辰也や、『テニスの王子様』の白石蔵之介(彼は例外かな)あたりでしょうか。まあ確かに、鴉の濡れ羽島へ招聘されるタイプの人ではないと思います。ブギ―ポップも、彼女を「世界の敵」とは認識しないでしょう。

 『ライト・ライター』にしろ、『パブリック・ブック』にしろ、由比ヶ浜ぷに子のOSを使い、人のバイタルを観測し、過去の小説をデータ化して統計を取り、と、自分で何も生み出していないんですよね。誰にも並び立てないけどすごい。めだかボックス』の言葉使いの一人、杠かけがえを彷彿させます。

 

 彼女のすごいところは、そのコンプレックスを最大限利用して、「世界を滅ぼす」までに至ったことです。普通自分の駄目なとこって見たくないんですよ。敵ながらあっぱれ、という程でもないですが、その姿勢は見習いたいですし、ちょっとだけ応援したいです(やってることは国際犯罪レベルなんですけどそこはご愛敬で)。哀川さんがそんな彼女を「天才以上だ」と認めた時は嬉しかったですね。

 まあ直後に論破されるんですけどね。

 

 鴉の濡れ羽島については、西尾さんのデビュー作『クビキリサイクル 青色サヴァン戯言遣い』を参照。

 

 

 

 オチ

 そうかい、そうかい。でもさあ、熱中のあまり、読んでる途中に力尽きて死んじゃうんじゃ、誰もこの本を読了できないとしか言えないんじゃね?

 

 哀川さんがコーヒーテーブルちゃんにそう言うと、彼女はそのまま踵を返して、何も言わずに地上に出ていきました。おしまい。

 作中でも触れられていますが、小説って終わるんですよね。シリーズとしては続いていても、その一冊が終わらないとなれば、それは小説とは……確かに言えません。

 漱石の『明暗』や太宰の『グッド・バイ』など、未完の小説も確かにありますし、オーケストラの曲でも未完成のものもいくつかありますが、途中であれ中断であれ、終わっていることには違いがありません。読み終わらない小説なんて、そもそも読もうとする人がいるでしょうか。

 好きな小説をずっと読み続けたいという動機がそのまま瑕疵になってしまった

 ちなみにコーヒーテーブルとはソファの前に置かれる背の低いテーブルのことで、その上に置かれる部屋の景観のための本を、コーヒーテーブルブック、と言うそうです。

 読むためではなく置くための本。うっかり飲み物こぼしちゃいそうですね。

 若気の至りを見事に論破した哀川さんは、手に取った『パブリック・ブック』を破壊せず、地下の本棚の中にそっと入れました。「妹」への供養とお別れ。相変わらず身内に甘いですが、変わらぬ潤さんも悪くないですね。

 

 

 感想

 超面白かったです。特に「好きな小説をずっと読み続けたい」「読み終わるのが寂しい」に大変共感してしまったこと、ドクター・コーヒーテーブルという人物の魅力、「妹」に対する哀川さんの甘さ、最高でした。書くモチベを保てないので他の短編については省略しますが、どれも面白かったです。

 もっとこういうの書いて下さい(面倒なファンの典型)。

 

 

 蛇足

 偏屈な小説家や読書家は、「倒れてきた本に埋もれて死にたい」などと言うことで自意識を保とうとします(自戒)が、彼らは果たして『パブリック・ブック』を手に取るのでしょうか。

「大好きな本を読みながら死ぬ」。

 知っての通り、死んだらそこでおしまいです――どこぞの狐面の言葉を借りるなら、「物語の終わり」です。まだまだ物語も人生も読み足りない私は、手に取るわけにはいかないようです。

 

 まあでも、幸せなまま死ねるって、幸せですよね。

 

 

 というわけで、西尾維新さんの『人類最強のときめき』でした。

 これにて擱筆

 

 こけら

 

 

 

 

『掟上今日子の鑑札票』あらすじと感想(ネタバレ含む)

 夜分に失礼します。こけらです。

 今回は西尾維新さんの掟上今日子の鑑札票』です。

掟上今日子の鑑札票 忘却探偵

 本作は【忘却探偵シリーズ】の13作目にあたります。

 前々作、『掟上今日子の乗車券』巻末で予告されていた『五線譜』と、その次の『伝言板』をすっ飛ばしての本作。西尾さんの予告詐欺は今に始まったことではないので、気長に待つとしましょう。

 

 ちなみに「鑑札」とは、居住区に飼い犬を登録した時に発行されるものだそうです。登録番号が明記されていて、飼い犬には必ずつけておかなければならないとか。人間で云うところの戸籍登録証明書みたいなものでしょうか。

 

 

あらすじ

「私は彼女を知っている。忘却探偵になる以前からね」

 殺人未遂事件の容疑者にされた青年・隠館厄介。いつも通り忘却探偵・掟上今日子に事件解決を依頼するも、その最中、今日子さんが狙撃されてしまう。一命を取り留めた彼女だったが、最速の推理力を喪失する。犯人を追う厄介の前に現れたのは、忘却探偵の過去を知る人物だった――

 

 

ついに忘却探偵の核心に……⁉

 今日子さんの「以前」、つまり記憶喪失になる前の話は、何となく匂わせられてはいました(作創社の紺藤文房など)。今作はその核心をズバッと突いた……という訳では相変わらずないんですよね。ホント煙に巻くのが御上手。語り部はご存知隠館厄介。本作では『冤罪王』などという不名誉な称号が付いています。狙撃犯の疑いをかけられた彼が、最速の推理力を喪失――もとい「記憶喪失であること」を忘れてしまった今日子さんの正体に迫る、というものです。冤罪を晴らそうと躍起になっている最中に、今日子さんの核心に触れていく感じですね。

 

 

 

登場人物

 シリーズ登場歴のある人物はこんなところです。

・隠館厄介(かくしだて・やくすけ)・・・・・・・・・・語り部、冤罪体質の青年

掟上今日子(おきてがみ・きょうこ)・・・・・・・・・最速の探偵(?)

・里井有次(さとい・ありつぐ)・・・・・・・・・・・・漫画家

 

 里井有次は、第一作『掟上今日子の備忘録』で初登場した売れっ子漫画家の女性です。例の「盗まれた100万円を取り戻すために1億円を払う」と言った方ですね。あの事件はめちゃめちゃ印象に残っています。今回は「気分転換に沖縄に来た主人公に偶然会って喋る」立ち位置の人物として登場します。

 

掟上今日子の備忘録(単行本版) 忘却探偵
 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレまみれです。

 

 

 

 

 

 

謎の凄腕スナイパー

 狙撃された某大企業の重役、名前も性別も明かされなかった人物は、元々肺癌を患っていて、手術を終えた後だったようです。病室で療養中のその人物(ヘビースモーカー)は、窓を開けて喫煙中、外から三発狙撃されました。厄介と今日子さんで現場検証をして、開始数十頁で真相に辿り着いた矢先、今日子さんの頭にライフル弾が当たりました。弾着の後に音が鳴ったので、遠距離からのスナイプと思われます。「白髪が鮮血に染まる」という表現良いですね、色の対比が。どうやら弾丸は貫通していたようです。この場合は穿透創でしたっけ。大丈夫か今日子さん。

 

 奇跡的に一命をとりとめた今日子さんですが、「ミステリ」に関する用語を全て忘れてしまいました。加えて、銃弾を受けて失神しているにも関わらず、倒れる前の記憶が残っていて――すなわち、忘却探偵という性質を失ってしまいました。それを「記憶喪失であることを忘れた」なんて表現していました。上手いこと言うなあ。

 

 そんな中で、厄介がミステリ用語を遣わずに事件のあらましを引き出すところは流石だなと思えました。度重なる冤罪から犯罪に詳しくなるというのも、何だか皮肉ですね。さらっと描かれていましたが、厄介はここで主治医から「あのクランケが頭を撃たれたのは二度目です」と言われます。今日子さんの頭には、手術痕が残っていました。しかも一度目はライフル弾ではなく、拳銃の弾だとか。

 

 

謎に軍備に詳しい今日子さん

 その後厄介は地雷に足を踏み入れてしまったり、探偵事務所のある掟上ビルディングが重装甲のキャタピラ戦車(戦車⁉)によって全壊したりと、明らかに何かに巻き込まれている雰囲気です。厄介は「第二の事件」「第三の事件」と言ったりしてますけど、最早テロでは……?なんて思ってしまいます。

 しかし今日子さんは、そんな奇々怪々な状況を難なく打破、あるいは踏破していきます。コンクリイトによる地雷の解除、ARによる戦車と民衆の煽動などなどを言い当てます。そこにいつもの今日子さんの口調や様式はありません。探偵じみた推理は存在せず、「知っていること」を述べただけとしています。「知識を戦争に使った」という表現がありますが、まさにその通りです。探偵ができるくらい頭の良い人間が、その才能を探偵以外に発揮したとしたら。そんな今日子さんを目前にして厄介は愕然とします(連邦捜査官についての説明は次項参照)。

 

意味記憶を奪っただけでなく――探偵とは違う、別の思考回路を生み出した。

生み出したのか。

それとも――修復したのか。

連邦捜査官が言うところの、忘却探偵になる以前の今日子さんへと。

 

 この時の今日子さんの知識暴力っぷりと見開き無改行スタイルは、懐かしき病院坂黒猫を彷彿させます。

ちなみに病院坂黒猫の登場する【世界シリーズ】は私がとっても推している西尾作品です(しかも未完結)。ぜひご一読いただければ。

 

きみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

きみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

 

 

 

FBIエージェント ホワイト・バーチ捜査官

 事件に奔走する厄介が家に帰ると、一人の金髪の男が不法侵入していました。彼こそが掟上今日子の「以前」を知る人物。ホワイト・バーチ。FBIの捜査官です。「ブロンドの小男」と表現されており、ツンデレの妻と、八歳の娘がいるそうです。

 先程の引用文にも出ていた「連邦捜査官」が彼です。今日子さんの「以前」を知っている人物、というか今日子さんの寝室の天井にあるあの文章――

 『お前は今日から、掟上今日子。探偵として生きていく』

  を書いた人物です

 迫りましたねえ、核心に。

 彼は、掟上今日子に「探偵」という制限をかけたのは私たちだ、と言います。家に来た理由は、厄介が狙撃犯ではないことを確認し、そして保護するため。そして狙撃犯は「ホワイト・ホース」だと。探偵になる前の掟上今日子を敬愛するファンクラブ会員の一人で、戦争犯罪人なんだとか。保護というのは、その「ホワイト・ホース」から、(元)今日子さんの語り部である厄介を守るためでした。留守中に爆弾が仕掛けられている可能性もあるとのことで。バーチ捜査官、意外といい奴かも。

 ここでタイトルが回収されていますね。鑑札票。ドッグタグ。ちょっとこじつけっぽいですね。前作『設計図』では犬が登場していたので、それ繋がりかなとも思ったのですが、読みが外れました。

 ちなみにホワイト・バーチは、日本語で「白樺」だそうです。

 

 

厄介、沖縄へ行く。

 バーチ捜査官には「国外に逃げろ」なんて言われていますが、そんな気は微塵もなく。偽りの逃亡先として沖縄を選びました。飛行機で那覇空港へ降り、ひめゆりの塔へと向かいました。沖縄戦の慰霊碑――戦争の爪痕ですね。「ちゃんと戦争と向き合わないと」という意識の元、平和祈念資料館にも伺ったりしています。

 作中でも厄介が痛感していますが、「ちゃんと向き合う」って難しいですよね。実体験するわけにもいかないし、ただ現実を見てショックを受けてしょんぼりしているだけでは、「向き合う」とはならないわけですし。

 

 そんなときに厄介は、奇遇にも里井有次に会いました。連載を一つ終えそうな彼女は、次回作の構想を練るためにここに訪れたのだとか。二人はそこで、創作について、漫画について、そして戦争についての会話劇を繰り広げます。この掛け合いは面白かったです。書籍化はされていませんが、同作者の【なこと写本シリーズ】で登場しそうな話でした。

 

歳を重ねて経験を重ねると、若い頃のようには描けなくなったことを感じるよ――

 

 同じ作家先生でも、年が経つにつれて作風も作品も変わっていきます。「あの頃の作風の方が好きだったのになあ、変わっちゃったなあ」というのは読者側の勝手な考えであって。同じ時を過ごしている作家なのだから、同じように色々なものを感じ、経験し、体験し、実感して、痛感して、何より生きているんです。変化がある方が自然なんですよね。たとえその変化の末に、一人の読者を幻滅させることになったとしても。

 こういう時、あの戯言遣いなら何と言うのでしょうね。

 戦争を見て現実を見て落ち込み、筆を折ろうか、などと里井先生は逡巡します。それに対する厄介の考え方は、多少尖ってはいましたが結構好きでした。

 

 エンターテインメントが戦争より弱い、なんてことはない。

 ないんだ。

 娯楽が人間を駄目にする? ふざけるな。どう考えたって、戦争のほうが駄目にするだろう――だったら狙撃銃なんて、地雷なんて、戦争なんて、ミステリーの道具立てにしてしまうのが正解だ。

 兵器など遊び倒せ。

 だからもし筆を折りたい――この時代から降りたいなら、才能が尽きたとか、億を稼いでモチベーションがなくなったとか、プレッシャーに負けて潰れたとか、別の理由にしてもらおう。

 僕に会ったせいにされても困るし――そんな冤罪は勘弁だ。

 

 その後美ら海水族館に行ったりして(デート?)、次の章では厄介は掟上ビルディングの跡地に戻っていました。里井先生との会話の中で、ヒントを見つけたのだとか。防空壕。よくもまあこじつけたなという感じですが、確かに沖縄にガマとかありますしね。掟上ビルディングの地下にも、秘密の空間があるのではないか――という見解に至ります。そしてあっさり見つけます。本当にあっさりです。地下への扉を開き、かかっていた梯子を降り、そこにボロボロの衣服を着た変死体を見つけ――たのですが、それはぼろい衣服ではなくギリースーツ(狙撃手が着る迷彩服)(表紙イラストの伏線回収?)で、変死体ではなく生きた人間で――厄介は気絶させられます。その人物こそ、バーチ捜査官が警戒していた「ホワイト・ホース」その人でした。

 

 

ホワイト・ホース

「――これで俺は、掟上今日子になれる」

 掟上今日子が忘却探偵になる以前の――戦地調停人だった頃の影武者であったホワイト・ホース(一人称は「俺」ですが、今日子さんと瓜二つらしいので、ここでの三人称は女性のものを使います)。

 彼女の目的は、掟上今日子自身になることでした。親しむ「マム」の余生を過ごしたい。自分ではない何かになりたい。だからこそ本物の「マム」――今日子さんには、元の記憶を取り戻し、戦地調停人に戻ってもらおう、と。

  今日子さんが『掟上今日子』になる前は、戦地調停人をしていたことが明かされます。年齢を考えると【物語シリーズ】の羽川翼

 そして今日子さんの生き標とも言うべき数多の推理小説を読む前に、邪魔者の厄介を排除しようと銃口を向けられます。ホワイト・ホースは、地下の図書館にあった推理小説を全て読み漁り、完全に「掟上今日子」になろうとします。

 そんな彼女に、厄介は言葉をぶつけます。

 ここでの厄介の「同じ本を読んでも形成される『人間』は違う」理論は面白かったです。

 

――つまり、あえて照れずに、声を大にして表明するなら、これが本当の

掟上今日子の備忘録』――だ。

 

 隠館厄介が、ちゃんと「西尾維新作品の」語り部をしていて驚きました。

 やればできるじゃん、厄介さん。

 

 

終劇(終戦

 結局厄介は今日子さんに助けられました。厄介の根回しが巡り巡って、今日子さんをビルディングの地下に誘導し――つまり厄介が来る前に今日子さんは既に地下図書館に来、そこにある小説群を読破して、「忘れることを思い出していた」、と。読書体験の詰まった書籍を読みなおすことで、「忘却探偵」という個性を復活させた……何だかこじつけっぽいですが、煙に巻かれておきましょう。

 今日子さんが今日子さんでなくなってしまって……記憶を上書きし直して……という筋書きは、ドラマ版『掟上今日子の備忘録』最終話を彷彿させました。

 本人が記憶していない以上、ホワイト・ホースの言う「マム」が今日子さんであることを証明する手立てはなく、結局真相は分からずのまま物語は終わります。帯や惹句で色々広告していた割には、少々物足りなく感じてしまいました。

 物語の〆がちょっぴり耽美になるのは、原点に帰ってきた感じがしますね。

 

 

 

ちょっぴり愚察

 今回初登場したFBI捜査官、ホワイト・バーチ氏。ホワイト・バーチは日本語で「白樺」。「白樺」と言えば、私は1910年に発刊された文芸同人誌『白樺』とそれを中心にして興った思潮、「白樺派」が想像できます。時を同じくして1908年、伊藤左千夫、蕨真一郎など短歌の先鋒達が集まって、さる短歌結社誌が創刊されます。『馬酔木』を源流にして作られたその雑誌の名は――まあみなまでは言いませんけど。

 恐らくその繋がりが、ホワイト・バーチの名付けた意味なのではないかと思ったりします。さしずめ次はホトトギスでしょうか。そう考えると、バーチ氏の奥さんや彼が昔呼ばれていた称号(?)、金髪なのは相方の誰かさんの影響、などと考えると何か繋がった気になってきますが…………… きっと私の気のせいですね。

 

 

おわりに

 あとがきには、「【忘却探偵シリーズ】は第二十四弾まで続く」と記載されていました。驚天動地。完結まで生きていられるでしょうか……。

 (愚察でちょっと触れていますが)この作品に「何か」を期待している方は、ハラハラドキドキしつつも、読了後「またかよ~」「ハイハイ知ってた知ってた」となること請け合いです。

 学生時代から、書籍として出版されている西尾さんの作品の大半は読んだつもりです。恥を承知で表現するなら「青春を共にした本」でしょうか(耳が赤くなりそうな表現です…)。しかし最近はちょっとだけ惰性になりつつあります。読むのも買うのも。

 そろそろ卒業ということなのでしょうかねえ。

 

 

というわけで、西尾維新さんの『掟上今日子の鑑札票』でした。

これにて擱筆

 

こけら

 

 

ご挨拶

 こんばんは。お初にお目にかかります。

 こけらと申します。どうぞよしなに。

 これから『講談杮落とし』にて、記事みたいなものを書いていこうと思っています。

 内容は読んだ本の感想などが主になります。

 読了備忘録のようなものでしょうか。自分で読んだ本を忘れないために――という名目もあります。何分記憶力が御粗末なものでして……。

 

 平日の日中と、時折土日も仕事になるような職に就いています。学生時代と比べて読書の時間はめっきり減ってしまいましたが、隙間時間を縫いに縫って、ゆるりと本を読んでいます。もっぱら休日は本読みに費やしてしまうような、出不精の女です。

 

 主に推理小説、ミステリ、妖怪と標題される物語を読むのが好きで、特に京極夏彦辻村深月森博嗣宮部みゆき西尾維新などの諸先生の作品に傾倒していました。他にも漫画、アニメ、ドラマ、劇場映画・クラシック音楽なども(表面的にですが)目を通したり耳を傾けたりしていますので、気が向いたらそういうことも書いていきたいものです。

 

拙文にて恐縮ですが、よろしくお願い致しますm(_ _)m

 

こけら